「フリーランスになる前に学ぶお金の教育」では、将来的にフリーランスを目指す会社員のITエンジニア向けに、フリーランスになる前に習得すべきお金の基礎知識を厳選してお伝えします。このシリーズを通して、フリーランスとしてつまずくことなく、充実した人生を送るための知識を身に着けていただけると幸いです。
「フリーランスになる前に学ぶお金の教育」は、全部で12テーマの講義を予定しています。今回は、第2回目である「会社員vsフリーランス」について学習します。
会社員とフリーランスは何が違う?
本章を解説する前に、いくつかの前提条件を定めておきたいと思います。これから話す制度は、年齢や就業時間、年収によって変わることがあります。そこで、今回は特に「フルタイムで働いている」、「20代から30代の」、「年収が400万円から600万円くらい」のITエンジニアを想定してお話しします。
さて、「フルタイムで働く」、「20代から30代の」、「年収が400万円から600万円くらい」のITエンジニアが、会社員とフリーランス、それぞれの立場での制度上の違いについてまとめてみました。それぞれのポイントについて解説していきます。
【税金】所得区分・所得の申告
まずは「税金」の話から始めます。みなさん、会社員とフリーランスでは「所得区分」が違うことは、ご存じでしょうか?会社員は「給与所得」で、フリーランスは「事業所得」になります。この「所得区分」について詳しく話すと長くなりますので、今回は大まかな概要だけお伝えします。所得税についての詳しい話は、次回の講義で解説予定です。
所得の算出方法についてです。会社員の「給与所得」は、「給与収入金額」から「給与所得控除額」を引いたもので計算されます。一方で、フリーランスの「事業所得」は、「総収入金額」から「必要経費」を引いて計算されます。
各項目を簡単に説明します。まずは収入に関する部分からです。
「給与所得」の「給与収入金額」というのは、要するに「会社から支払われる源泉徴収前の給与や賞与を全部合わせた金額」のことです。つまり、税金のことは一旦置いといて、会社からもらった全ての給与と賞与を合計した金額が「給与収入金額」というわけです。この「給与収入金額」は、年末にもらう源泉徴収票で確認できます。
一方で、「事業所得」の「総収入金額」はもっとシンプルです。これは「事業の売上」ということになります。フリーランスの場合は、一人で事業を行っていますので、いわゆる「個人の売上」ですね。
次に、控除に関する部分です。
「給与所得」の「給与所得控除額」については、予め定められた金額が差し引かれます。この「予め定められた金額」というのは、下図の「令和2年分以降 給与所得控除額」の表に記載の金額です。こちらの金額が、会社員の「給与所得」に控除できる「給与所得控除額」です。このように会社員の場合は、「所得控除額」が決まっていて、控除額を自分でコントロールできないというところは一つのポイントです。
一方、「事業所得」の「必要経費」は、事業を運営するのに必要な支出のことを指します。たとえば、電車代やパソコン代、通信費、交際費など、これらを経費として計上できます。会社員の場合は所得控除が自分でコントロールできないのに対し、フリーランスは経費を自分でコントロールできる点が大きな違いです。会社員がフリーランスになることを考える時に、税金面でどちらが有利かを判断する大きなポイントとしては、「給与所得控除額」を超える「経費」を上手く活用できるかどうかが重要になります。
次に、「所得の申告」の方法の違いについてです。
会社員の場合は、基本的には「年末調整で申告を完了」させます。会社が従業員のために必要な情報を集めて、代理で所得申告をしてくれます。年末調整の申告時期は12月になります。
一方、フリーランスの場合は、自分で「確定申告」をしなければなりません。会社がやってくれていた作業を全部自分で行う必要があるので、ちょっと手間がかかります。確定申告の時期は、毎年2月16日から3月15日までです。
社会保険①(労災保険・雇用保険)
続いて、「社会保険」について説明します。まずは「労災保険」からです。
「労災保険」というのは、「雇用されている立場の人が仕事中や通勤中に起きた出来事に起因したケガ・病気・障害、あるいは死亡した場合に保険給付を行う制度」のことです。会社員の場合は雇用されているので、この保険の適用がありますが、フリーランスの場合は雇用されていないので、基本的には適用できません。しかし、フリーランスでも特定の条件下では、労災保険が適用されることがあります。また、2024年の秋ごろには、フリーランスにも労災保険が適用されるように法律が改正される予定のようです。
次に、「雇用保険」についてです。
「雇用保険」とは、「失業したときに次の仕事を見つけるまでの間、所得を保障したり、再就職を支援するための給付を受けられる制度」です。名前の通り、「雇用されている人を対象とした保険」ですので、会社員には適用されますが、フリーランスには適用されません。
社会保険②(公的医療保険・公的年金保険)
最後に、「公的医療保険」と「公的年金保険」についてです。
会社員の場合は「被用者健康保険」と「厚生年金保険」に加入しますが、フリーランスの場合は「国民健康保険」と「国民年金」に加入することになります。これらの各項目について、主な違いを説明します。
「被用者健康保険」と「国民健康保険」を比較すると、一般的に「被用者健康保険」の方が保険料が割安で、保障も手厚いことが多いです。また、「厚生年金保険」と「国民年金保険」について比較すると、「厚生年金保険」の方が保険料が割高ですが、将来受け取る年金の額が大きくなる傾向があります。
さらに、保険料の支払いについてみていきます。
会社員の場合、「公的医療保険」や「公的年金保険」の保険料は、会社と従業員で折半になります。つまり、会社が半分を負担してくれるということです。
一方でフリーランスの場合は、保険料を全額自分で負担することになります。そのため、「公的医療保険」や「公的年金保険」に関しては、会社員の方が経済的なメリットが大きいと言えます。
フリーランス化する際にやること
続いて第2章、「会社員からフリーランス化する際にやること」についてお話しします。
会社員からフリーランス化する際に必要な手続き
ここでは、会社員からフリーランスになる際に必要な手続きをまとめています。細かい話をすれば他にもありますが、今回は特に重要なものだけをご紹介します。それでは、順番に見ていきましょう。
開業届の提出と青色申告承認書の提出
まず、①「開業届」と②「青色申告承認書」についてです。
これらは「事業開始日から2ヶ月以内、または1月1日から3月15日まで」に税務署に提出する必要があります。私の場合は直接税務署に行って手続きしましたが、意外と簡単で、申請書を作って提出するまで20分ほどでした。現在は郵送やオンラインでの提出も可能なので、それらを利用すると良いでしょう。
ちなみに、開業届と青色申告承認書は、マネーフォワードクラウド開業届などのWebサービスを使えば、5分程度で簡単に作成できます。下図に、私がマネーフォワード クラウド開業届で作成したものを示します。税務署に提出する際は、このような書類が必要です。
国民健康保険と国民年金保険
続いて、③「国民健康保険」と④「国民年金保険」です。
基本的に、被用者健康保険から国民健康保険への切り替えが必要ですが、被用者保険には「退職後も2年間の任意継続期間」があるため、それを利用するのも一つの選択です。国民健康保険や国民年金保険への切り替えは、「退職日の翌日から14日以内」に市町村役場で手続きをする必要があります。私は直接役所に行って手続きしましたが、現在は郵送やオンラインでも可能です。
iDeCo
最後に、⑤「iDeCo」についてです。
会社で企業型確定拠出年金制度を利用していた場合、それをiDeCoに移管することになります。移管の期限は資格を喪失した月の翌月から6ヶ月以内で、手続きは運営管理機関、つまり金融機関などで行います。
以上が、会社員からフリーランスになる際の主要な手続きの一覧です。
ただし、一点補足しておきます。第1章で説明した通り、会社員の時には労災保険と雇用保険に加入していたと思いますが、フリーランスになるとこれらは基本的に適用されなくなるため、特別な手続きは不要です。
フリーランスになる際にやっておくと良いこと
次に、フリーランスになる際にやっておくと良いことについてお話しします。
フリーランスになる上でやっておくと良いことは、次の3点です。一つ目は、「会社員のうちにクレジットカードを作っておくこと」、二つ目は「事業用の銀行口座とクレジットカードを準備すること」、三つ目は「クラウド会計ソフトへの登録」です。これらについて、順番に見ていきましょう。
①会社員のうちにクレジットカードを作る
まず、一つ目である「会社員のうちにクレジットカードを作る」ことについてです。
もしクレジットカードを作る予定があれば、会社員のうちに作っておくと良いでしょう。フリーランスになると、社会的な信用度が低く見られがちで、クレジットカードの審査が通りにくくなることがあります。そのため、会社員としての信用がある間に、必要なクレジットカードを作っておくことおすすめします。
②事業用の銀行口座とクレジットカードの準備
続いて、二つ目の「事業用の銀行口座とクレジットカードの準備」についてです。
会計を行う際、事業とプライベートのお金の流れが混在してしまうと、帳簿の整理や資金管理が複雑になりがちです。そこで、事業専用の銀行口座とクレジットカードを準備することで、日々の事務作業を格段にスムーズにできます。
ちなみに、フリーランスになるにあたって、私がおすすめする銀行口座の戦略は、事業用、投資用、生活用の3つの銀行口座を準備することです。以前に「コスパ最強!?フリーランスエンジニアのための銀行口座戦略」の記事を投稿しています。興味のある方は、こちらも参照してみてください。
③クラウド会計ソフトの登録
最後に、「クラウド会計ソフトの登録」についてです。
フリーランスになると、自分で帳簿をつける必要が出てきます。しかし、この帳簿付けを全て手作業で行うのはかなり手間が掛かります。そこで、本業とは直接関係ないこのような作業を、クラウド会計ソフトを使って簡単にすることを強くお勧めします。
ワーク
今回の講義はここまでです。理解度を深めるために、最後にワークを行いましょう。用意したワークの問題は2つです。一つ目は、「会社員とフリーランスの違いを自分の言葉で説明してみよう!」。二つ目は、「会社員からフリーランスになる際に必要な手続きを自分の言葉で説明してみよう!」。それでは、チャレンジしてみてください。
まとめ
最後に、今回の講義のまとめです。
- 会社員は給与所得で年末調整、フリーランスは事業所得で確定申告で所得申告を行う必要があります。
- 会社員に適用される労災保険と雇用保険は、フリーランスでは原則適用できません。
- 会社員は被用者健康保険と厚生年金保険に加入し、フリーランスは国民健康保険と国民年金保険に加入します。
- 会社員からフリーランス化する際に、開業届と青色申告承認申請書届の提出が必要です。また、国民健康保険や国民年金保険、イデコへの切替えが必要です。
さいごに
今回の記事はここまでです。今回は、会社員とフリーランスの制度上の違いや、フリーランス化する際に必要となる手続きなどについて学びました。次回は、所得税と住民税の仕組みについて解説します。それではまた次回お会いしましょう。